まだ子どものころ、私はあまり植物を育てるということにおもしろさや楽しさを感じることは、ありませんでした。それよりは、犬と遊んでいるほうが好きでした。
初めて、植物というものに心を強く動かされたのは、枯れたと思って、庭の隅の水道のあたりにほったらかしにしてあったシンビジュームから、生き生きとした新芽が出ているのを見つけたときでした。
枯れてしまったように見えても、その根は生きており、静かに命をつないでいたことに「希望」というものを見た気がしました。
そして、「根」の力の強さ、「根」が大事であることを深く納得しました。
今日の一冊
作者のゲルダ・ミューラーさんは1926年のオランダ生まれ。
パリを拠点に、今も絵を描き続けているそうです。
やさしい色合いの精緻な絵は、ゲルダさんが自然に魅せられ、たいへんな敬意をもって描いていることを物語っているように感じられます。
木肌や子どもたちの髪のふんわりした感じも写実的です。
古い家に引っ越してきた子どもたちが、思い思いに庭をつくって、草花と仲良くなっていくのですが、庭には、大きなリンゴの木が一本。
主人公の「ぼく」は、この木と話をしたいと願います。
ある夏の夜、りんごの木が語ったこととは……。
四季を通じて、庭のできていく様子を描いたこの作品からは、土や木、葉や雨の香りが立ち上ってきそうです。
心に響く絵本には、一人の人間の人生をはるかに超えた時間の流れが描かれていたり、感じられたりします。
この絵本もまた、身近な自然を忠実に描いているがゆえに、人の力を超えたものも一緒に宿っているかのようです。
我が家にも庭があり、少しのハーブやばら、月桂樹やオリーブの木を鉢に植えています。さくらんぼのなるさくらを鉢で買ったら、小さくて真っ赤な、甘いさくらんぼがなりました。
ばらは、娘の誕生日にケーキ屋さんがつけてくれた一輪の切り花を、土に植えたらどんどん増えたもの。意外と強いなと思っていたら、ばらの好きな友達が、そんなことは珍しいよと教えてくれました。
除草剤は撒かないことにしているので、今の時期、草もどんどん育ちます。草のなかには、かわいらしい名も知らない小さな花をつけたものが数種類あります。愛らしさでは花屋さんで見るような花もかなわないと思います。
水やりをしたり、大きな草を抜いたりすると、土の香りがします。この香りが好きです。
少し湿り気を含んだ土と、草花の香りを静かに鼻から吸い込むと、脳の奥の方がとてもリラックスした感じがします。
植え替え用に買ってきた土は、ふかふかとしていて、まさに栄養の宝庫という感じがします。この土に、私たちの生命は支えられているのだなあと感じるひと時です。
どんなにITが発達しても、生きとし生けるもの、土がなければ生命をつなぐことだけではなく、きっと、健全な社会も維持できなくなると思います。
こんなこと、あたりまえで、ことさらにいうほどのこともないと感じられる方も多いかもしれません。しかし、私自身、庭の土を触らなければ、土のぬくもりと、土に命を支えられていることを忘れそうになっている自分を見てしまうのです。
3月に桜のつぼみがふくらんで、花が咲き、そのあとみずみずしい新芽があちこちで芽吹くこの季節。私も、自然のほんの一部であることを覚えてさえいれば、たとえ心が打ちひしがれてしまうようなことが起こっても、再生する力が与えられるのではないかと思える季節です。
庭の鉢で育っているものも、だんだん地植えにしていきたいと思っています。
再生の力である、根っこがしっかり育つように。
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